NPO法人純正律研究会への入会のご案内。
玉木宏樹(代表) 作曲家・ヴァイオリニスト
リスニングコラム
純正律音楽研究会がお勧めするCDや演奏会,演奏団体をご紹介していきます。


■CD紹介
Pelecis 《FROM MY HOME》
ROSENBERGS SJUA 『R7』

『Three Pieces/Kleines Requiem/Good Night』
GENTLE GIANT『in concert』『Out of the woods』
Trio Patrekatt『Adam』
libera『luminosa』
RAMEAU『Orchestral Suites Vol.2』
『Carmina Burana――Medieval Poems and Songs』
『SALTERIO』 BEGONA OLAVIDE
The Hilliard Ensemble 『JOSQUIN : MISSA HERCULES DUX FERRARUAE』
Pelecis 《FROM MY HOME》より "Neveretheress"


お勧めのCD、演奏団体などございましたら、是非、ご投稿ください。

mail puremusic0804@yahoo.co.jp




リスニングコラム/Pelecis 《FROM MY HOME》


Pelecis 《FROM MY HOME》より "Neveretheress"
(TELDEC0630-14654-2)

その第1回目に登場するのはPelecisという作曲家の作〈Neveretheress〉です。私は自分のホームページ上でPelecisを紹介しながらラトビア人だから読み方は分からないと書いたら東大大学院生から「ペレ―ツィス」と読むんだとのMailを頂きました。

 さて私がペレ―ツィスを知ったきっかけは、後々に紹介する予定のポーランドの作曲家でやはり純正律に拘った作品「悲歌のシンフォニー」で300万枚のCDを売り切ったグレツキのピアノ協奏曲の入ったCDを買ったおかげです。グレツキの曲は退屈でしたが、最後におまけのように入っていたペレ―ツィスの「コンチェルティーノ・ブランカ」に私は大衝撃を受け、夜も眠れないほどの興奮の毎日が続きました。この曲は題名通り、ピアノの白鍵だけと弦楽合奏による3楽章構成の全くハ長調だけで一切転調のない、開き直った潔い曲です。

 ところで〈Neveretheress〉は、モスクワ留学時代のルームメイトだったヴァイオリニストのクレーメルのために書かれたソロヴァイオリンとピアノと弦楽合奏のための協奏曲で、30分近く延々とD-Major,D-Minor,つまりニ長調とニ短調だけで構成されます。冒頭から5分くらいから始まるピアノのフレーズはまさに日本人にピッタリのマイナームードで、まさに「ヤラレタ―」というショックが尾を引きつつ感動にひたるというとても個性の強い曲です。おっとっと、ピアノはもちろん純正律に調律されていることは、私のシンセとコンピュータで確認ずみです。


                           (玉木宏樹)



リスニングコラム/ROSENBERGS SJUA 『R7』

ROSENBERGS SJUA 『R7』
(DROCD-017)

黒木:スウェーデンのRosenberg(スウェーデンだからローゼンべリと読むのかな)という女声のコーラスを中心にした弦楽器とのアンサンブルです。

玉木:ぼくはクラシックでは北欧関係が大好きで、いろんな作曲家のCDを持っているけれど、中でもスウェーデンのものは少ない。それでも、ラールソンなんていう作曲家はベルクの弟子なのに純正律指向の作曲を残しているし、スウェーデン人があまり音楽をやらないというんじゃないよね。

黒木:クラシックはあまり詳しくないですが、ロック関係では良質なグループが結構ありますよ。

玉木:たとえば?

黒木:サムラマンマスマンナとか、アネクドテンとか。

玉木:ところで、今回のローゼンべリ、ぼくも一度通して聴いたところ、北欧の民謡風な感じとはずいぶん違って、やけにグレゴリアン的というか、ブルガリアンボイス風というか……そんな感じって正しいのかな。

黒木:ブルガリアン風とも言えますね。

玉木:北欧、スウェーデンやノルウェーにはフィドルによく似たヴァイオリン属の民族楽器があるんだけど、その雰囲気がよく感じられて、それも大変面白い。しかし、このバンドは結構キレイにハモり続けているよね。多分、トップソプラノの声質の特徴にみんなが合わせているというか……それから、このトップソプラノ、何かいま話題になっているらしいね。その辺をちょっと説明して下さい。

黒木:坂本龍一が朝日新聞社主催のオペラ『Life』のために連れてきたそうなんです。彼女の声を見出したのはさすがだとは思いますが、このアルバムを聴くと、『Life』だけで帰らせたのはあまりに残念というべきでしょうね。今度は、彼女1人だけでなくて、このグループ全体での日本公演を坂本氏は企画すべきでしょう。そこまでやらなければ本物じゃない。「世界の坂本」が聞いてあきれると言われても仕方がない。そのくらい素晴らしい演奏だと思います。

玉木:彼は、朝日新聞ともケンカするほど根性があるというか、自分勝手なところがあるから、みんなのためを思って行動はしないんで、まあ、当たり前のことでしょう。ところで、肝腎のこのトップソプラノの名前は?。

黒木:スザンヌ・ローゼンバーグです。

玉木:CDの日本でのディストリビュート先は?

黒木:MAレコーディングズですね。

玉木:きいたことないなぁ……一般の店でも売ってる?

黒木:渋谷のタワーレコードとかWAVEとか、ディスクユニオンに行けばあるけど、一般の流通には載っていないと思います。

玉木:じゃあ、地方の人が買うにはどうすればいいわけ?

黒木:直接MAレコーディングズに問い合わせてもらうのが早いでしょう。

【問い合わせ先】
MAレコーディングズ販売 Tel. 03-5276-6803/Fax. 03-5276-5960
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-12-6-3F(株)マーキュリー内
E-mail: tgmarec@ibm.net
URL : http://www.marecordings.com/



リスニングコラム
GORECKI 『Three Pieces/Kleines Requiem/Good Night』


GORECKI 『Three Pieces/Kleines Requiem/Good Night』
指揮Rudolf Werthen、演奏I Fiamminghi-The Orchestra of Flanders-(TELARK20 CD-80417)

玉木:黒木さんは、あんまりクラシックは強くないよね。

黒木:クラシック音楽は知っていますが、現代の純正律系のものには詳しくないです。

玉木:創刊準備号で紹介したペレーツィスはラトビア人だけど、いま、ポーランドからフィンランドにかけて純正律の嵐が吹きまくっている。で、今日はグレッキというポーランド人の作曲した「ポルカの為の小レクイエム」を……〈玉木、CDをかけながら話す〉グレッキと言えば、「悲歌のシンフォニー」が世界中でミリオンセラーになって有名になったんだけど、今のこの曲の出だしと同じように、同じようなコードばかり使っていて――というか、シンフォニーの場合、淡々とイ短調のモード系が続く。すると、オーケストラは自然に純正律のイ短調になっていく。そこへ心をかきむしるような悲痛なソプラノが登場するわけ。〈曲の冒頭部分は非常に静かに、ヴァイオリンとピアノだけが淡々とシンプルな演奏を続けている〉どう?

黒木:ちょっと単調な気もするけど……。

玉木:そうとも言えるけど、そこがまたいいような、ね。〈曲が単調なので会話が続く〉

玉木:まだ4分か、まだまだかな。

黒木:なんですか?

玉木:まあ、もうちょっとのお楽しみ。さて、ポルカ以外にもマズルカとかポロネーズとか、なぜポーランドの関係の舞曲が多いんだろうね。話は変わって、いま北欧で純正律の嵐が吹き荒れてと言ったよね。その中のラトビアかエストニアかは忘れたけど、全世界に散らばっている亡命者たちが年に1回、祖国へ帰って全員で合唱をやるらしいんだ。NHKで特集があったと
人からきいたんだけど、亡命者たちは毎年、1回のイベントのためにすごく練習するらしいんだけど、多分ピアノは使われないと思う。だから、会場は純正律の渦になるはずだよね。

黒木:なるほど、一度聴いてみたいもんですね。

玉木:さてもうすぐだ。しばらく聴いてみよう。
 〈延々と淡々と続く静けさ〉
  ……………………………‥‥‥‥‥・・・・・・・・・・・!!!!!!!
 〈突然の大音響〉

玉木&黒木:ワアー!?〈のけぞる二人。玉木、あわててCDの音量を下げる。黒木、妖怪にでも遭ったかのようにおったまげ、次には半狂乱になるほど笑い転げる〉

黒木:なにこれぇ!! すげぇや。面白い。これはすごい!
 〈黒木、感嘆詞連発〉

玉木:いったいナニが起こったのか!? 『ひびきジャーナル』を読んでるみなさんにもぜひ一度、この曲を聴いて、初体験の「のけぞり」を味わってもらいたいね。



リスニングコラム/GENTLE GIANT『in concert』『Out of the woods』


GENTLE GIANT『in concert』
(WN CD066)
GENTLE GIANT『Out of the woods』〈the BBC sessions〉
(BOJCD018)

黒木:今回は僕の担当なのでロックでいきます。

玉木:僕もロックは、実は大好きだし、日本で初めてロックヴァイオリンをやってるんだよね。

黒木:そうでしたね。じゃ、ジェントル・ジャイアントというバンドを御存知ですか。彼らはイエス、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、E.L.P.などといったバンドと同時期に活躍した、いわゆるプログレなんですけど。

玉木:うーん、今出た名前は全部知ってるし、よく聴いたけど、ジェントル・ジャイアントはどうも網の外のようだったね。

黒木:そこで今回は、このジェントル・ジャイアントをお薦めしたいわけです。特徴といえば、とにかくテクニックがすごかった。それも個人のプレイヤーとしてのテクニックではなく、バンドのアンサンブルとしてのテクニックが尋常じゃない。しかも1人が複数の楽器をこなし、ヴァイオリン、チェロ、ヴィブラフォン、リコーダー、サックス、トランペットまで操ってる。ギター、ベース、キーボード、ドラムなどはメンバー5人全員がほぼ同じレヴェルで演奏でき、ライヴでは全員によるギター、リコーダーやパーカッションアンサンブルを披露していました。何よりも圧巻なのがヴォーカルアンサンブルで、5人がアカペラでばっちりハモっちゃう。はっきり言って、さっきのバンド群の中では問題にならないくらい飛び抜けて上手かった。ただし日本ではほとんど売れなくて、一部のファンにもてはやされるくらいですが……現在では音楽活動をしていないようです。まずは早速、彼ら「ON REFLECTION」という曲を聴いてみましょう。――〈CDをかける〉――これは彼らの馬鹿テクぶりを凝縮したような曲で、スタジオ録音よりもこのライヴヴァージョンの方が面白いですね。と言うか、ライヴで、つまり編集をしないでここまでやれるというのは驚異的。まずリコーダー、チェロ、ヴァイオリン、ヴィブラフォンなどのアンサンブルで始まって、ばっちりハモってるヴォーカルアンサンブル、そして最後に、エレキ楽器によるロックアンサンブルで終わる、と。

玉木:う〜ん、うますぎる、器用すぎる、自分達だけが楽しんでる、という印象だねぇ。

黒木:じゃ、今度は同じ曲をBBCのスタジオライヴのヴァージョンで聴いてみましょう――〈今度はスタジオライヴ版をかける〉――最後のロックアンサンブルのところ、ギターとキーボードのパートがひっくり返っているでしょ。基本的に彼らは曲を対位法で作っているので、こういう遊びができるんです。これは編曲を担当していたキーボードのケリー・ミネアの功績なんですけどね。彼はロイヤル・アカデミー音楽院で作曲の学位を取得しているんです。それが何を血迷ったかこんなロックバンドに手を染めてしまったんですね。

玉木:なるほど。

黒木:なぜ彼らがいまいち売れなかったかというと、彼らはどうも音楽的にすごいことをやりさえすれば良いと考えていたらしくて、こういう安直な発想をしちゃったところにあると思うんです。音楽の世界ってのは色々な面でのファッション性が求められると思うんですけど、彼らはそれを無視して音楽だけに走っちゃった。

玉木:僕自身も若い時にそういう考えで失敗を繰り返してるんで、少々耳が痛い。

黒木:でも逆にそういう純粋さみたいものが曲がりなりにもジェントル・ジャイアントというバンドで結実したことがあるという事実、それはそれですごいと思うんです。



リスニングコラムTrio Patrekatt『Adam』


Trio Patrekatt『Adam』
(xource/xoucd 119)――

今回のTrio Patrekattは、第1回に続き、またスウェーデンのグループです。というのも、第1回目で紹介したROSENBERGS SJUAのCDでセロを弾いていたミュージシャンがこのグループにも参加しているからです。ROSENBERGS SJUAがきれいなハモった歌声を聞かしてくれていたのに対し、今回のは完全なインストです。

で、このCD『Adam』で面白いのは、他の2人が弾いているニッケルハルパというスウェーデンの民族楽器です。音色はヴァイオリン、フィドロ系の擦弦楽器ですね。ところが皆川達夫監修『楽器』(マール社、1992)を見てみると、弦楽器のページではなくて機械楽器のページにハーディ・ガーディなんかと一緒に紹介されている。音高を決めるのはハーディ・ガーディと同様に鍵盤を使って機械的に弦を押さえるんですが、弦を擦るのにはハーディ・ガーディが機械になっているのに対し、ニッケルハルパはヴァイオ
リンのように弓を使わなければならないんです。

 ちょっと聞く限りはフィドロのように聞こえるんですが、よく聞いてみると、鍵盤を押さえるかちゃかちゃいう音が入っています。つまりフレットレスじゃないってことです。ヴァイオリンみたいにフレットレスの楽器は純正律に向いていて、ギターやピアノみたいにフレットがあったりして音高が固定されている楽器は純正律に向かないって信じている人、割と多いんですけど、この程度の曲をやるんだったら、別に無理して平均律に調律しなくても、使う調を限定してやれば十分ハモリのきれいな音楽ができるってことが言えると思います。

 純正律では音楽的に幼稚なものしかできないって迷信がありますけど、この程度で十分だと思うし、僕なんかからすれば、このCDでも音楽的に随分高度だなって感じるんですよ。だったらね、巷に流れている音楽の9割以上が工夫次第でハモリを追求できると考えています。

 何もドデカをことさらに悪く言う必要もないとは思いますが、ドデカをやるんじゃないんだったら、別に無理して平均律にしておく必要なんかないのではないでしょうか。音大の人ってなんか「複雑な転調すること=音楽的に高度」って考えてるような気がするんですけど、僕はね、転調なんかしなくたって十分面白い音楽作れると思うんです。

 別に転調しちゃいけないなんて言っているわけじゃないです。だいたい僕はボサノバ好きですから。

 個人的に12曲目の「FARDEN」が好きです。倍音がきれいに響いています。この奏法については玉木さんにコメントをもらいたいと思います。
(黒木)

※M・AレコーディングスのHPは:
http://www.marecordings.com/

***************
玉木のコメント

あの楽器は実に不思議で、見事な純正律でハモっています。調律は多分、ソレソレのGチューニングだと思います。コード進行が単純な分、とてもスリリングなリズムの速奏きフレーズが感動ものです。No.12の曲の奏法は、ヴァイオリンの駒の近くを奏くことによって、高倍音、時にはガラスを引っ掻いたような音も出ます。これはイタリア語でスル・ポンティチェルロといい、我々は「スルポン」と呼んでいます。現代音楽に多く使われています。多分、ギターにも、特にエレキの場合なんかに、似た奏法があったような気がしていますが。



リスニングコラム/libera『luminosa』

libera『luminosa』(WPCS-11100)

 今のところ、私がセミナーを開いた時、純正律の代表例としていの一番にかけるCDがこの1枚、リベラの『ルミノーサ』だ。天国的にハモるボーイソプラノの美しさはウィーン少年合唱団を優にしのぎ、同じ英国のボーイズ・エア・コワイヤよりも純粋にきこえる。リベラの1枚目ももちろん素晴らしかったが、この1枚は、クラシックの名曲を素材にしていることともあいまって、非常に格調が高い。
 また、1枚目では分からなかったリベラの正体が見えてきた。プロジェクト・リーダーは作曲家のロバート・プライズマン(1952〜)。もともとオルガニストとして、協会音楽に長年関わってきた人。彼のもとに集まった少年の平均年齢は12歳とのことだが、その音楽性は12歳なんてものではない。彼らの純粋な発声でこそ得られる高い音楽性は、世俗に染まった大人たちには真似の出来ない世界でもあるだろう。

 クラシックを素材にしたと書いたが、あくまで素材であり、いわゆる編曲なんかではない。いろんな編曲シーンを経験した私でさえ、ドギモを抜かれた、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」の「水族館」。リベラの歌声で初めて「水族館の神秘が味わえる。
 CDのタイトル曲でもある「ルミノーサ(聖なる光)」は、なんと、ドビュッシーの「月の光」。私自身、何度も編曲をしているが、コーラス版は思い付きもしなかった。というか、こんな程度の高い純度のコーラスは、日本には存在しないからだ。しかし、最近、女声コーラスもノンビブラートの人
達が増えており、そのうち、リベラ級のコーラスの誕生も近いかもしれない。




リスニングコラムRAMEAU『Orchestral Suites Vol.2』


RAMEAU『Orchestral Suites Vol.2』
(NAXOS/8.553746)

 バッハと同時代のフランスの作曲家、ラモーの「アナクレオン」組曲を紹介します。音楽史上ではたいへん有名な人だが、日本で演奏されることは滅多に無い。私とて、子供の時、スズキ教則本でラモーの「タンブーラン」を奏いて以来、ときたまFMでクラヴサン曲集を聴いたくらいで詳しくはない。そんな折、久し振りにCD屋を覗いたら、NAXOSシリーズが、なんと1枚780円に値下げになっており、その中にラモーのCDがあったので買ってきた。

 ラモーは大バッハの2年先に生まれ、バッハよりずっと長生きした。これはオーケストラの編曲だが、金管あり、ピッコロありの非常に華やかで分かり易い曲。タンブーランが非常に効果的で、けっこう下世話な風情もある。こういう曲や、同時代のヴィヴァルディを聴くにつれ、大バッハのヘンクツ時代遅れ、ゴリゴリ、コンサバぶりがよく分かる。
 演奏者の正体はよく分からないが、いうまでもなく、純正律を基にした演奏である。安い掘り出しモノの1点として、CD屋を覗かれた折にはお薦めの1枚である。


(玉木)



リスニングコラム/『Carmina Burana――Medieval Poems and Songs』


『Carmina Burana――Medieval Poems and Songs』
(NAXOS/8.554837)

 アルヴォ・ペルトのCDについては別の項で紹介しているので、レビューでは、図の2枚を紹介したい。まず『カルミナ・ブラーナ』。

 ナクゾス・レーヴェルは、約900円前後という恐ろしい価格で新譜を出している。ユーザー側に立った場合、たいへん嬉しいことだが、作・編曲家側から見れば、ちょっとなあ……という面もあるが、よくこの値段で新譜が出せると、まず慨嘆。

 「カルミナ・ブラーナ」というと、カール・オルフを連想される方もおられると思うが、もともとは13世紀頃のドイツ系吟遊詩人たちの歌の総称で、オルフはこの古楽を発掘し、現代風に編曲したものである。歌は、僧侶たちが酒・女・道徳を説いた歌とされているが、坊主が酒・女を歌うなどとは何事ぞ、と思うなかれ、「ボッカチオ」に描きつくされている様に、洋の東西を問わず、生臭坊主は沢山いた。また「カルミナ・ブラーナ」はある面、とんでもなく卑猥で直訳できないとも言われている。このCDは、そんな底抜けに陽気な乱痴気騒ぎのCDだ。

 13世紀の曲でもあり、ドイツ系の音楽なのに、今日のようなドレミ節は存在せず、すべて教会旋法、いわゆるモードだらけである。各曲はすべて転調なしのハモりっぱなし。全くの転調も無く、コード変化もほとんどない曲の特長は、いろんなモードの変換にあるということがよく分る。言葉では〈教会旋法〉を知っていても、なかなか実態は分らない方にはぜひおすすめである。ヘクサコルドっぽい6音だけの曲もあり、ドリア、リディア、ミクソリディアのメロディが多い。そして、教会旋法といいながら、暗いものはひとつもなく、1曲目の「ようこそ、バッカス」からして、底抜けのドンチャン騒ぎで、けっこう笑えてしまう。2曲目のリコーダーは、もろ尺八風だったり、他の曲でも旋法の使い方が妙に日本風にきこえる時もある。最後のバグパイプがチャルメラ風だったりして。
 アンサンブル・ユニコーンの演奏もすばらしいハモりの世界を楽しんでいる。ハーディガーディ(一種の自動演奏ヴァイオリン)やフィドル、バグパイプ、太鼓、カウンター・テナー、ソプラノ、何とも不思議なアンサンブルである。
(玉木)



リスニングコラム/『SALTERIO』 BEGONA OLAVIDE,
『THE SPLENDOUR OF AL-ANDALUS』 CALAMUS

『SALTERIO』 BEGONA OLAVIDE
(M025A)

『THE SPLENDOUR OF AL-ANDALUS』 CALAMUS
(M026A)

 

 今回はスペインの伝統音楽を紹介します。というと、フラメンコを思い浮かべる方が多いとは思いますが、今回扱うのはさらに古いのものです。カルロス・パニアグアという人が、失われてしまっていた中世の古楽器を、図版などいろいろな資料を当たることによって、独自に復元し、文字通り手探りで弾き方を修得しつつ演奏活動を行っているのです。この2枚のCDは彼を中心としてベゴニア兄弟など彼の仲間の演奏をスペインの教会でタッド・ガーフィンクルが録音し、そのタッドさんが日本で設立したM・Aレコーディングスというレーベルから発売されています。僕が紹介するCDは、実は、タッドさんが買い付けて日本に持ち込んだのを購入したものが多い、ということは気付いておられる読者の方も少なくないのではと思います。

 中世のスペインといえば、そして特に彼等の住むアンダルシアとは、まさにキリスト教文化とイスラーム教文化が交錯した地域であり、それがゆえの豊かな文化遺産に溢れるところです。自然科学史の領域では、古代ギリシア・ローマの学芸は中世においてイスラーム教徒に受け継がれ、12世紀くらいから主にイベリア半島などからヨーロッパに流入してきた、と説明されることを確認しておきましょう。もちろん音楽もそうやって継承された重要な学芸の一つでした。ところが中世のイスラーム教徒がどのような役割を果たしたについては、未だもって十分に研究が進んでいるとは言えないのです。キリスト教のイスラーム教への蔑視という問題もさることながら、音楽に関してはなにぶんにもレコードなどない時代ですから、当時実際にどのような音楽が演奏されていたかについては確かめようがないのです。そういった中で、たとえ想像の域を出ないのだとしても、このCDのような試みは貴重だと思います。

『SALTERIO』のほうは弦楽器の響きが本当に美しいです。ヨーロッパに住んでいて感じるのはとにかく教会が日常生活の本当に身近なところにあるということです。それぞれの教会は基本的に抜群の音響効果を誇っており、ということはそれらがあっという間に上質のコンサート会場に早変わりしてしまのですから、うらやましい次第です。なおSALTERIOというのは琴のような弦楽器の総称です。

『THE SPLENDOUR OF AL-ANDALUS』は、歌と笛の旋律を表に出した曲が多いです。個人的な感想としては、笛の音が何となく日本のお囃子を思わせるし、中学生の頃愛聴していた中国の伝統音楽の調べに似ているような気がします。そんなことをタッドさんに話したら、笑われてしまいました。もちろん、これらのCDを買った当時、水滸伝を読み直していたからかも知れません。ただし、笛の調べは明らかに平均律ではなく、ピュタゴラースだとすれば、僕が日本や中国の音楽と近いものを感じてしまうのも強ち間違いではないように思っています。
(黒木)

※M・AレコーディングスのHPは:
http://www.marecordings.com/



リスニングコラム/The Hilliard Ensemble 『JOSQUIN : MISSA HERCULES DUX FERRARUAE』,ジョン・ケージ 『プリペアド・ピアノのためのソナタとインタリュード』

The Hilliard Ensemble 『JOSQUIN : MISSA HERCULES DUX FERRARUAE』
(Virgin/7243.5.62346.2.8)           
ジョン・ケージ 『プリペアド・ピアノのためのソナタとインタリュード』
(NAXOS / 8.554345)


 純正律音楽というジャンルの中では、年代的にも内容的にも、あまりにもかけ離れたふたりの作曲家のCDを紹介しよう。

1人目は、ジョスカン・デ・プレである。ジョスカン(c1450〜1521)は、15〜16世紀に於ける伝説的な作曲家。フランドル派の巨匠といわれており、当時の音楽界にはあまりにも大きな影響を与えた人ということになっているが、名声ぶりだけがひとり歩きしている感もあり、ジョスカンは実は3人いた、とかいまだに分らないことが多い。ただし、純正律のハモり感が、イギリスから伝わってきて、それを物の見事に消化した作風はあまりにも有名で、特に、ア・カペラ(無伴奏合唱)曲は定評がある。このジョスカンのア・カペラ合唱曲を見事に再現したCDが出た。イギリスの有名
な男声コーラス、ヒリヤード・アンサンブルによる『MISSA HERACULES DUX FERRARIAE』
だ。私はこのCD、眠る前にかけてよく聴くが、まだ最後まで到達したことは一度もない。必ず途中で熟睡し、目が覚めるとCDは終っている。

         * * * * *

 もう1人は、現代のバリバリの鬼才、ジョン・ケージ(1912〜1992)である。いまさらジョン・ケージの奇行振りを説明するまでもあるまい。私は学生時代、J・ケージのコンサートへ行って大騒ぎをしたこともあり、彼のハプニング性は、イベントとしては面白いとしても「音楽」とは違うと思っていた。また、私の若い頃は、いわゆる現代楽と称して、頭の悪い作曲家まがいが、ピアノの中に鉛筆や消しゴム、洗濯バサミ等という異物を挿入して、訳のわからん雑音をまき散らす、プリペアド・ピアノ奏法というものが流行っており、私は心底バカにしきっていたので、現代音楽展というチラシの中に、プリペアド・ピアノなどという文言があろうものなら即、ハナカミ扱いだった。そういう偏見(?)はつい最近まで続き、NAXOSレーベルが、強力廉価版の中にJ・ケージを入れていなかったら、私は死ぬまでJ・ケージの良さを知らなかったことだろう。
 『プリペアド・ピアノのためのソナタとインタリュード』は、なんと、1946年前後の作曲だが、書かれた年代はともかく、その醸し出すサウンドの何と神秘的なことか! ピアノの中の異物はしかし、計算し尽くされたかのような倍音を発し、1台のピアノに対する何人かの楽器奏者が共演しているかのような世界を生み出している。私は、自分の迂闊を大いに恥じたい。J・ケージはやはり、ただならぬ人だ。
 当CDレヴューで情報を書いてくれている黒木氏によると、J・ケージは、師のシェーンベルクから、「作曲の才能よりも発明の才能がすばらしい」と、誉めたのかけなしたのか分らないことを言われたらしいが、さもありなんと思える。ただし、このプリペアド・ピアノの特長を活かした作曲は大変難しい。ケージの発明の才、恐るべし。
 この倍音豊富な音の世界は、純正律的にも大いに共感できるものがある。NAXOSは安いし、ぜひ1回お聴き願いたい。


(玉木)



リスニングコラム/Pelecis 《FROM MY HOME》


Pelecis 《FROM MY HOME》より "Neveretheress"
(TELDEC0630-14654-2)

その第1回目に登場するのはPelecisという作曲家の作〈Neveretheress〉です。私は自分のホームページ上でPelecisを紹介しながらラトビア人だから読み方は分からないと書いたら東大大学院生から「ペレ―ツィス」と読むんだとのMailを頂きました。

 さて私がペレ―ツィスを知ったきっかけは、後々に紹介する予定のポーランドの作曲家でやはり純正律に拘った作品「悲歌のシンフォニー」で300万枚のCDを売り切ったグレツキのピアノ協奏曲の入ったCDを買ったおかげです。グレツキの曲は退屈でしたが、最後におまけのように入っていたペレ―ツィスの「コンチェルティーノ・ブランカ」に私は大衝撃を受け、夜も眠れないほどの興奮の毎日が続きました。この曲は題名通り、ピアノの白鍵だけと弦楽合奏による3楽章構成の全くハ長調だけで一切転調のない、開き直った潔い曲です。

 ところで〈Neveretheress〉は、モスクワ留学時代のルームメイトだったヴァイオリニストのクレーメルのために書かれたソロヴァイオリンとピアノと弦楽合奏のための協奏曲で、30分近く延々とD-Major,D-Minor,つまりニ長調とニ短調だけで構成されます。冒頭から5分くらいから始まるピアノのフレーズはまさに日本人にピッタリのマイナームードで、まさに「ヤラレタ―」というショックが尾を引きつつ感動にひたるというとても個性の強い曲です。おっとっと、ピアノはもちろん純正律に調律されていることは、私のシンセとコンピュータで確認ずみです。


                           (玉木宏樹)

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